税理士と人工知能と将棋

平成29年10月29日放送TBS「林先生が驚く初耳学!」で人工知能の話題が取り上げられました。
その内容ですが、将来なくなる職業の代表として税理士が挙げられていましたので、本当にそうなるのかちょっと考えてみました。

(1)人工知能の進化
私(当事務所の所長)は子供のころ将棋に夢中になったことがあります。
そのころはコンピューターゲームと言えばファミコンが流行っていた時代です。
当然ファミコンにも将棋ソフトはあったのですが、今から20年以上も前のものであり、実力は弱すぎて話しにならない程度でした。

しかし今の将棋ソフトの発展は著しいものがあり、名人にさえも勝利するほどの実力があるため、素人ではとても太刀打ちできないレベルにまで成長を遂げています。

ですから人工知能の発展は痛いほど分かります。
人間では考えつかないような差し手を平然としてくる人工知能に脅威さえも感じます。
もはや将棋においては人間を超えてしまったわけですから、将来この力がビジネス社会にどのような影響を与えるのかは興味深いところです。

(2)人工知能のレベル
人工知能にはレベル1からレベル5までの段階があるそうです。
レベル1と2は家電に組み込まれているようなもので、条件に従って判断するレベルです。
例えばルンバなどにも組み込まれていますが、あくまでもセンサーから得られる情報を基に、この場合はこうするといったプログラムに従うだけです。
この家、この部屋の場合はこのように掃除した方がいいという判断まではできません。

しかしレベル3からは人工知能が学習する機能が備わることになります。
例えば迷惑メールの特徴を教えておけば、メールの内容を解析してこれは該当するといった判断ができるようになります。

そしてレベル4ではその学習がさらに進化し、自ら規則性を学ぶことができるようになります。
レベル3では迷惑メールの特徴を人間がプログラミングしますが、レベル4では大量の迷惑メールのデータから人工知能がその特徴を自ら取得することができるようになります。

このレベル4が現在の人工知能の最新型であり、特化型人工知能などと呼ばれます。
将棋ソフトもこれに該当し、特定の分野では人間を超える性能を発揮します。
自動車の自動運転もこの分類ではレベル4であり、研究が進んでいる状態です。

最後にレベル5は汎用型人工知能と呼ばれ、人間に近い働きができ、頭脳ではそれこそ鉄腕アトムのような存在です。
ただそもそも今の研究の方向性では実現は難しいと言われています。
ここに至るのはまだまだ先か、いつ実現するのか想像できません。

(3)レベル4でどこまで進化できるか
よって税理士業務への影響を考える場合は、当面はレベル4を想定すればいいことになります。
仮に奇跡的にレベル5の人工知能が登場すれば、それは税理士だけでなく医師の代わりもできるようになるわけですから、そうなったらあらゆる仕事の代替が考えられお手上げかもしれません。

では具体的にどうなれば税理士が不要となるかと考えてみます。
現状では銀行の入出金データを取り込む技術はあります。
またレシートをスマホで撮影し、日付けや金額を取り込むことはできます。
しかしそれらのデータに勘定科目を設定する必要があります。
これは単純な場合もありますが、複雑な場合もあるのです。
そして最終的には決算書としてまとめ、確定申告書を作成することになってきます。

その場合、はたして人工知能がさらに進化したとしてもこれらの業務をできるかというと、推測ですが、質の悪いものであればできてしまう可能性はあるかもしれません。

(4)今後の予測
ですから個人事業の申告作業であれば人工知能任せでできるようになるかもしれません。
もっとも今でも個人事業の方は自分で会計ソフトにデータを入力して自分で申告されている方はいるので、それが楽になると言った感じでしょうか。
実際アメリカではそうなってきています。
http://www.kaikeidiversity.jp/ai-tax.html

一方で法人の申告ができるのかという疑問はあります。
個人の申告より複雑だからです。
仮にできたとしても前述の通り質の低い、間違いを含むものであればできるかもしれません。
それでいいのであれば、税理士不要となる可能性もあるのでしょうか。

ただそれはあくまでも最低限、税務署に提出する申告書を作成するという目的を達成するだけのことであり、顧客のニーズはそれだけではないはずです。

そもそも機械が苦手で信用できない方もいれば、税理士の署名がある申告書を望む方もいるはずですし、自社に合った個別の相談をしたい方もいるわけです。
特に税務調査での税務署との交渉、駆け引きは人工知能では不可能です。

よって金額的な部分で今以上に値下がりが起こる可能性はあるかもしれませんが、税理士がまったく不要になることは想定しにくいのではないでしょうか。

(5)組み合わせで生き残る
そうは言っても税金の計算だけしかできない、という税理士の評価は今以上に下がっていく可能性はあります。

一般的に言われていることは、これからは税理士+何かの組み合わせが必要となってくるということです。
例えば若い経営者であれば家計の面倒も見ます、とか高齢の経営者であれば相続も相談できます、といった具合です。

また保険や投資にも詳しい、不動産にも詳しいと言った付加価値が重要視されてくるはずです。
最近の流れで言えば海外資産の所有や国際的な税務などもあります。

ここまで聞くと今でもそうなっている、と思われるかもしれませんが、よりそれが顕著になっていくのではないかと推測しています。

(6)本来の専門家の誕生
人工知能の発展によって専門家の仕事が奪われるという理屈は、現状で専門家が行っている事務作業の部分を言っているのだろうと思います。

その部分は機械に奪われるかもしれませんが、そうなったら専門家はより広い視野に基づくアドバイスをするようになれば顧客は離れないのではないかと思います。

そのためには広範囲で大量の知識を仕入れなければなりませんが、実はその姿が本来の専門家の在り方ではないでしょうか。

細かいデータの処理と初歩的な判断は機械が行えばいいのです。
ただ銀行と税務署のことを考えた総合的な判断、将来の世代交代も交えた対策などはまだ人間の領域ではないかと考えています。
相手の知識に応じた分かりやすい説明も人間ならではの領域です。
また個人的な家族的な事情や心情も踏まえたトータルでのアドバイスも人間が得意とするところです。

まさに知識、知恵を売る本来の専門家の仕事がこれから求められるようになるし、そういう専門家が生き残る時代になってくるのではないでしょうか。

(7)相続税
もっとも今までの話しは所得税や法人税の話しです。
相続税となると遺産の分割をどうすればいいのか、という問題も関わってきますし、単発の依頼ですので人工知能に任せよう、とはなりにくいと思います。

(8)微妙な判断
最後に人工知能ではできないであろう思考について述べてみます。
税理士の業務は法律に基づき行うものですが、全てが法律に書いてあるわけではありません。

中にはどう判断すればいいのか迷う場合もあります。
さらには税務調査の可能性や(昨年来たばかりだから・・・など)、もし追及された場合(どのように証拠作りをしておくか)なども想定して総合的にアドバイスをしたりします。

またいいか悪いか判断できないときでも否認を覚悟でとりあえずやっておく、という考え方もあります。
このような人間らしい微妙な思考は人工知能は苦手ですから、単純に全ての税理士が不要とはならないだろう、という私の結論です。

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