節税(相続税)

本来相続に対する対策は、遺産分割、納税資金、節税の3つの側面から総合的に検討する必要があります。
しかし節税についてもかなり関心が高いので、概要ですがご紹介します。

生前贈与

暦年贈与の基礎控除

財産を減らして相続税を軽減させたい。
このような考えに基いて子や孫へ財産を贈与することもあります。

この贈与については、毎年110万までは贈与税がかかりません。
この制度を利用して毎年110万までの財産を贈与すれば財産の軽減が図れます。

さらに贈与のスピードを上げたいときは、贈与税が出ることを覚悟して多めの金額を贈与する方法もあります。
例えば相続税として適用される税率が40%になりそうであれば、贈与税で10%の税率が掛かってもまだ負担が少なくて済むと考えます。

名義預金の注意点

例えば祖父母が孫へ現金を贈与して節税する事例は多くあります。

しかし相続税の調査で、その贈与については名義預金であって、その祖父母の預金であると言われてしまうケースも多くあります。

名義は孫の預金でも、実質的には贈与した人の預金なので、贈与はしていなかった(亡くなられた方の財産は減っていない)と指摘されてしまうのです。

これを避ける注意点としては、
・贈与契約書を交わす
・現金手渡しではなく預金口座を通した振込みでお金を渡す
・別の印鑑を使う(祖父母の預金の印鑑と孫の預金の印鑑は当然違うはず。)
・印鑑、通帳、キャッシュカードを祖父母が保管しない
・受け取った本人がいつでもお金を使える状態にしておく(何でもいいので一部は使ってしまう。)
などのポイントがあります。

なお祖父母でなく親からの贈与でも同じです。
また子が未成年の場合は親が法定代理人となるので、親が代わりに通帳などの管理をします。

よって贈与契約書には両親も契約の当事者として記載する必要があります。
もちろん子が成人になったときは、その預金は子に管理をさせます。

これは無駄遣いをしてしまうかどうかは別問題です。節税のためなら管理をさせる必要があります。
もっとも無駄遣いを防止させるには、生命保険に加入させて積み立てさせるとか、国債に関連する比較的安全な投資信託に投資させるといった方法もあります。

またその贈与金額が年間110万円を超えた場合は申告が必要です。

連年贈与について

毎年同じ相手に贈与をすることを連年贈与といいます。
例えば親が子へ100万円を毎年贈与するケースなどが該当します。

この連年贈与については、毎年の贈与ではなく、はじめから一括した大金を渡すつもりだったのではないか?それを分割して渡しただけではないのか?
という指摘を受ける可能性があるという情報が氾濫しています。

仮にその指摘通りになると、一度に大金に相当する財産(定期金に関する権利)を受け取ったことになり、多額の贈与税が発生してしまいます。

しかしその定期金給付契約を締結した証拠が無い限り、本来はそのような課税をされることはおかしいのです。

よって間違っても、1,000万円を10年に渡って100万円づつ贈与するという契約書は作成してはなりません。
(参考 国税局ホームページ

単なる毎年の贈与に対して一括した金額による贈与の認定をされてしまうことは、明確な根拠がなければありえません。
ただ理屈では分かっていても、税務署等から何か言われることすら嫌だという方もいらっしゃいます。

そこで、
・上記の名義預金の注意点を守る(贈与契約書は必須です。)
・贈与の日を変える(例えば毎年正月に渡すということをしない。)
・贈与の金額を変える(去年は100万円、今年は90万円など・・・)
・あえて110万円を超える贈与をして贈与税の確定申告をする(申告をすれば必ずその年分の贈与が認められるとは限りません。後から覆えされることもあり、一括での課税を避ける手段の一つに過ぎません。)
というやり方を実践すれば、まず安心だと思います。

不動産

不動産を生前に贈与すると、相続による移転よりも税制面で不利になる場合が多くあります。
低額で譲渡をして、不動産を子へ移転させようとしても、その浮いた分は多額の贈与があったとして、贈与税が発生してしまう可能性があります。

ただし高収益の賃貸建物など、贈与を検討した方がいいものもあるので総合的に考える必要があります。

贈与税の配偶者控除

婚姻期間が20年以上の配偶者に、居住用の不動産を贈与した場合は2,000万円まで贈与税が課税されません。(申告は必要です。)

さらに110万円の基礎控除もあるため、合計で2,110万円までが非課税枠となります。
この贈与により確実に財産の総額が減るので、一定の節税効果があります。

上場株式

上場株式を贈与した場合は、原則ではその贈与日の価格で評価をします。
しかしその他に、贈与をした月、前月、前々月の平均額のうち最も低い金額で評価ができます。

そこで購入後に株価が上昇すれば上昇前の価格で贈与をすることができ、売却をしなければ所得税が課されることもありません。

自社株

事業をされている経営者の方は、生前に自社の株式を次世代に移転することを検討する必要があります。

その評価額を計算することはかなり複雑ですが、移転については不動産と違って登記も必要なく、不動産取得税のような取得に対する税金も課されないので、計画的な贈与を考えるべきです。

生前贈与加算

相続の開始から3年間さかのぼって、その間に行われた贈与については無効とされてしまうケースがあります。

つまりその贈与財産を相続財産と考えて、相続税の計算で再計算をすることになります。
この適用があるのは相続や遺言で財産を取得した方です。

よって相続する予定がない孫や子の配偶者へ財産を贈与しておけば、相続前3年間の縛りを考える必要はなく、相続財産はその分減ることになります。

相続時精算課税

例えば高齢者である親が子へ財産を贈与しても、贈与税を課さない制度を相続時精算課税といいます。

贈与ではなく相続として扱うという趣旨です。
実際は相続が起きたときに、その贈与を相続として計算し直します。

また贈与金額が2,500万を超えると20%の贈与税が課されますが、これも相続時に精算され、払い過ぎた分があれば還付されるので、結局贈与税はかからないことになります。

この制度は年配の世代から若い世代へ財産を移してもらい、経済を活性化させることを意図して設けられた規定ですが、毎年110万円までは贈与税がかからない制度が使えなくなってしまう欠点もあります。(一度適用すると撤回はできません。)

さらにこの制度によって贈与された土地については、後述する小規模宅地等の特例も使うことができなくなってしまいます。

なお誤解がないように触れておきますが、例えば父から息子への贈与に対してこの制度を適用しても、母から息子への贈与にこの制度を適用しないのであれば、母からの贈与は今まで通り通常の贈与となります。(110万円の基礎控除が使えます。)

実際にはいくつか要件もあり、総合的に節税効果等を判断することになります。

住宅取得等資金

祖父母や親の世代が、子や孫へ住宅を取得するための資金を贈与した場合に、一定額を非課税にする制度があります。(一定の期間限定措置です。)

贈与税の非課税は、相続財産を減らすことができる貴重な制度なので、該当する場合は忘れずに使うことがポイントです。

また贈与税の申告は必ず必要になります。

教育資金

祖父母世代から孫世代への資産移転を促進する目的で、教育資金については1,500万円まで贈与税が課されない制度が創設されました。(一定の期間限定措置です。)

しかしそもそも親族が教育資金を提供しても贈与税は課されません。
この制度は確実に教育資金を贈与したいときに使用するものであると考えられます。

単なる贈与では他の用途に使われてしまう可能性があるし、また自分が死亡してしまうとコントロールができなってしまいます。

実際には受け取る側が、金融機関に領収書などを提出する手続きが必要なので、使い途について抑止力は働くかもしれません。

なお他の用途に使った金額があったり、30才の時点で余った金額があった場合は通常の贈与の扱いとなります。

負担付き贈与

財産の贈与と、借金などの負債の返済をセットで移転させる行為を負担付き贈与といいます。

この場合の贈与の金額は、財産の価額-負債の金額となります。
財産の価額とは相続税評価額が基本なので、一般的な時価よりも低くなります。

以前はこの方法で節税をする方法もありましたが、この負担付贈与は、例えば土地や家屋などは一般的な時価で価額を算定することになったので、有効な節税策ではなくなりました。

何も知らずに負担付贈与をしてしまうと、思わぬ納税が発生してしまう可能性もあるので、慎重に検討するべきです。

土地の有効活用

小規模宅地等の特例

土地については、一定の範囲まで評価額を最大80%減額できる特例があります。

そもそも土地は財産の中でかなりの金額を占めるため、この特例を使えないことは税額の計算上かなりの負担になります。

実際にはいくつかの要件がありますが、生前に対策を打てる場合もあるので真っ先に考慮する必要があります。

対象としては居住していたもの、事業に使用していたもの(貸付けを含む)が前提です。
空き地ではこの特例は受けられません。

土地の評価

土地の評価額は貸していると評価額が下がります。
貸宅地といいますが、借地権が設定されていると例えば7割下がったりします。

また貸アパートなどの建築物がある場合も下がります。
貸家建付地と言いますが、例えば2割程度下がったりします。

さらにその建物の評価額も、例えば3割程度下がる場合もあります。

不動産事業

上記の小規模宅地等の特例と土地の評価は組み合わせて適用が受けられます。

そもそも相続税法による土地の評価額は、公示価格の8割程度とされています。
そして仮にアパート経営をすれば、例えばさらに2割程度評価額が下がります。

その上で小規模宅地等の特例を適用すれば、その下がった評価額がさらに半分になる可能性もあります。

またそのアパート経営の資金を借入れによって賄えば、借入金は財産の評価額から控除するため、全体の評価額が下がる可能性もあるのです。

以上のような背景から、相続税対策として借入れによって不動産事業を行うケースもあります。
不動産管理会社を設立して、法人として経営をすることもあります。
しかも税理士や銀行も勧めてくる場合があるので信用してしまいがちです。

しかし結局事業であることには変わりがありません。
当然事業リスクがあることを忘れてはなりません。

そのリスクは残された方が背負うことになるので、専門家が勧めてきても慎重に考える必要があります。

生命保険

生命保険を活用することが、相続税の節税に有効な場合もあります。

詳しくは節税(保険)をご覧下さい。

養子縁組

相続税法上の養子の取扱い

相続税は法定相続人の数が多くなるほど安くなる仕組みになっています。
そこで養子縁組をして子の数を増やす方法も考えられますが、相続税の計算上はその数が無制限に認められるわけではありません。(民法上は制限なし。)

最大でも2人までしか認められません。(特別養子、連れ子養子等を除く。)
しかしそれでも相続税が軽減されることは明らかなので、生前に検討すべき課題の一つです。

また孫を養子にすれば、世代を一つ飛ばして財産を次の世代へ移転できるので、長期的に考えてかなりの節税効果が見込める場合もあります。

なお養子縁組をしたら必ず遺言書を作成しておくべきです。(公正証書遺言)
人間関係への影響も大きいので、そこまで配慮する必要があります。

民法上の養子縁組

確かに相続税を計算する上では、養子縁組は節税になる可能性があります。
しかし特に未成年者を養子にする場合(孫養子等)は、慎重に考える必要があります。

養親夫婦の二人が亡くなられても、実親に親権が自動的に回復しないこととされているからです。
もっともその実親が未成年後見人の申し立てをしたり、あらかじめ遺言で未成年後見人を指定しておくことはできます。

ただ遺産分割協議については、実親である後見人は、相続人としての利益が相反すればその未成年者の代理人として参加できません。(後見人ではなく親権がある単なる実親であっても利益が相反する場合は同じです。)

また名乗るべき姓についても一定のルールがあります。
いずれにしても簡単なことではなく、ご自分で勉強することも大切です。

現金

現金の評価額はその金額そのものです。
しかし相続前に他の資産に換えてしまえば評価額が下がるため節税になります。

非課税資産に組替える

生前に墓地や仏壇等を取得しておく方法も有効です。

墓地や仏壇等は相続税が非課税とされる財産なので、購入した金額だけ財産が減ることになります。(投資用のものや美術品を除く。)

評価額の低い財産に組替える

相続により財産を取得した方が、引き継いだ住宅のリフォームなどをした場合は、相続税が課せられた後のお金を使うことになります。

そうであれば、生前にリフォームなどをしておけばその分の財産が減るので有効な節税と資金活用になります。
なおリフォームについては、補修の範囲であれば固定資産税には反映されません。

※金額や増改築の規模などから相続税法上の財産と判断されてしまうケースもあります。

また自宅の増築をした場合、その評価額(固定資産税評価額)は、その増築に掛かった費用より低くなるので、相続後に増築する可能性があれば、生前に実施してみる価値があります。

自社株

相続財産で評価額が高いものの代表例が、不動産と非上場株式(自社株)です。
不動産と共に何かしらの対策を講じておかないと、後で大変なことになってしまいます。

非上場株式の評価

自社株を贈与する場合には、当然自社株の評価額が低い方が望ましいと言えます。
しかしその算定は複雑であるため、税理士に相談をして対策を講じるしかありません。

そこで問題となるのが、会社自体は現状で経営をしているということです。
評価額を下げるために業績が(数字上だけでも)悪くなってしまっては本末転倒です。

この矛盾を緩和するには、一つは時間をかけることが重要になってきます。
早い段階から相続対策を意識しておけば、解決できることも多くあるのです。

自社への貸付金

会社が赤字で資金繰りの状態がよくない場合は、社長が会社に対して資金を貸し付けているケースがよくあります。
会社側の決算書では役員借入金などの科目で計上されているものです。

この貸付金は相続時に財産となって、課税の対象となってしまう可能性があるので、債権放棄等をして相続財産とならないように工夫をする必要があります。

しかしその債権放棄により株式の価値が上がると、他の同族株主への贈与とされてしまう等の問題が出てくるので、慎重に計画的に進める必要があります。

従業員持株会

上場企業の多くが導入していますが、非上場会社であっても従業員持株会を活用する方法は相続税対策として有効です。

従業員持株会への自社株の譲渡、第三者割当増資などの方法により相続税の負担を結果的に下げられる効果が期待できます。

遺産分割

土地の分割取得

土地の相続は難しい一面もあります。

共有として、例えば兄弟で1/2づつ取得する方法もあります。
しかしこれでは売却等の場合に兄弟それぞれの合意が必要です。
揉める原因になってしまいます。

また分筆して2つに分けて、例えばそれぞれを兄弟で所有する方法もあります。
実はこの方法により土地の評価額が下がり、相続税が軽減される可能性もあります。

ただしその土地の上に建物がある場合等は、評価額が下がりません。
広大地とされる土地、不合理な分割と判定された土地についても同様です。

いずれにしても、相続後のことも含めて慎重に判断する必要があります。

配偶者の税額軽減

配偶者は1億6千万円までの財産を相続しても課税されません。
さらに1億6千万円を超えたとしても、法定相続分の金額までは課税されないことになっています。
これは相続税の確定申告書を提出し、配偶者の税額軽減の制度を受けた場合に適用となります。

その財産の金額は、相続税法により評価した金額であり、土地については上記の小規模宅地等の特例を適用した後の金額となります。(適用ができる場合)

よって配偶者がいる場合には、多くの財産を相続することにしてしまえば、課税を避けることができるケースも多くあるはずです。

二次相続

上記の「配偶者の税額軽減」を使って、相続税の負担をかなり軽減できたとしても、まだ相続は終わったわけではありません。

次にその配偶者の方の相続が起きた場合は、多額の相続税が発生してしまう可能性もあります。
よって2回目の相続(二次相続)も考慮に入れて、遺産の分割をする必要があります。

さらに二次相続までに、また相続税の対策を考えなければなりません。

未成年者控除・障害者控除

未成年者や障害者の方が財産を相続した場合は、課税されない一定の枠があります。
しかもその枠を使い切らなかった場合は、その分を扶養義務者の相続税額から控除することができます。

よって未成年者や障害者の方が相続人となっていて、扶養義務者も相続人である場合には、その未成年者や障害者の方が少しでもいいので財産を取得することにすれば、その控除できる枠の恩恵を受けることができます。

相続税の納付

相続税の納付方法については、金銭一括払いが基本です。
しかし分割で納付する延納、相続財産で納付する物納の制度があります。

また非上場株式や農地、山林に対する相続税、贈与税については一定額の納税を猶予する制度もあります。

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